母のゆりかご
親が子供を喜ばせることに比べて、子供が親を喜ばせることはどれほど簡単なことか。
という言葉を、どこかで耳にしたことがある。
母が検査入院した。本人、そして家族が思っていたほど大したことはなかったものの、体調不良の原因はまだ分かっていない。人に迷惑をかけることがなによりも耐え難いと思っている母。入院前の診断で可能性にすぎない病状を聞かされただけで、「どうしよう、職場に迷惑をかけてしまう、どうしよう」と軽いパニックに陥っていた。
入院先とは兄も僕も離れている。別々ではあるが病院に向かった。まあ大したことはなさそうだしよかったじゃんと言うけれど、不安は消えない。まあ病院にいる以上当たり前な気もするけれど、不安定な気持ちが伝わる。
母はこんなに弱弱しかっただろうか。ベッドで横になり続けていることが、果たしてこんなにも人を衰弱させるとは思わなかった。体を起こすのも大変そうな中で、運動しろ運動しろ、といったってそんな気が起きるわけもない。小さなウォーキング大会とかに一緒に出るように勧めた。すると少しだけ、ノってくれた。
というか、あれだな。楽しみが子供しかない人だったから、僕たち二人兄弟が出て行った後、老いてしまうことは必然だったのかもしれない。
去り際
僕「それじゃあ、お大事に」
母「何それ冷たい。家族に言う言葉じゃないやろ」
僕「だったら、なんて言ったらいいんよ」
母「兄ちゃんは“気を付けて”っていってくれたよ」
僕「じゃあ“気を付けて”」
母「はい」
と、分かれた。“お大事に”っておかしいかなあ...